四月の農園で、手のひらに収まるおやつを作った日

春が来た、とはまだ言い切れない朝がある。

四月に入ったばかりの長野は、日向では土の匂いがして、確かに季節が動き始めたのだと感じる。けれど日陰に入ると空気はまだひんやりと締まっていて、コートの前ボタンを留めたくなるほどだ。そういう季節の端境期に、私は畑仕事の合間のおやつが無性に恋しくなる。

この時期、グラニースミスの最後のロットを出荷し終える。木箱に丁寧に詰めて宅配業者に預けると、その年のグラニースミスとの付き合いがひとまず終わる。毎年そのとき、少しだけ寂しいような、やり遂げたような、奇妙な気持ちが胸の中に同居する。

その日も出荷を終えて家に戻ると、冷蔵庫にグラニースミスが一個だけ残っていた。形が少し歪で、売り物にするには惜しい。けれどその青みがかった緑色の皮は張りがあり、手に持つとずっしりと重かった。これをどう使おうか、と少し考えた。

エネルギーボールを作ろう、とそのとき思った。

グラニースミスを選んだ理由

エネルギーボールは、オーツやナッツをまとめて丸める、加熱不要のおやつだ。シンプルだが、素材の組み合わせ次第で味がまるで変わる。

私がグラニースミスをこのレシピに選んだのには、明確な理由がある。この品種は果肉がしっかりと締まっている。他のりんごよりも水分量が少なく、刻んでもべたつかない。そして何より、あの鋭い酸味だ。グラニースミスを生で口にしたことのある方はご存知だと思うが、一口噛んだ瞬間に来るきりりとした酸っぱさは、国産りんごの中でも際立っている。その酸味が、ナッツの重厚な旨みと蜂蜜の甘さを締め、後味を清潔にしてくれる。理屈ではわかっていたが、実際に作ってみると、その相性の良さに改めて驚かされた。

農園でこの品種を育て始めたのは二十年ほど前のことだ。当時は「なぜ日本でわざわざ酸っぱいりんごを」と問われることも多かった。でも使ってみるとわかる。調理向きの品種として、グラニースミスは独自の地位を持っている。

材料を揃える:刃を入れる前の一呼吸

冷蔵庫から取り出したグラニースミスを、流しで軽く洗った。皮の表面に水滴が光り、緑色が一層鮮明に見えた。このレシピでは皮付きのまま使う。皮ごと刻むことで、食感のアクセントになるのと、あの青みがかった緑色が断面に残り、見た目にも清涼感が出る。

芯を除いて5mm角に刻んでいくと、包丁を入れるたびに酸味のある香りが立ち上がった。甘いりんごとはまるで違う。緑の青さと酸っぱさが混じったような香りで、鼻の奥が少し刺激される感じがある。刻み終えたらキッチンペーパーで丁寧に水気を拭いた。ここを手を抜くと後でまとまりにくくなる。

ロールドオーツは、以前から愛用している大袋のものを使っている。一度に使う量は少ないが、品質が安定していてありがたい。まとめ買いをお考えの方には ロールドオーツ 800g×3袋 が使い勝手がよくておすすめだ。

アーモンドとクルミはそれぞれ粗みじん切りにした。細かくしすぎると食感が失われるので、あえて粗く残す。その不揃いな粒感が、後の食感に深みを与える。

混ぜて、丸める。ただそれだけの作業の中に

火を使わないことの緊張感のなさと、別の難しさ

ボウルにオーツ、アーモンド、クルミ、シナモン、塩を入れてざっと混ぜた。そこへ蜂蜜とピーナッツバターを加える。ここで初めて、材料が「まとまり」を持ち始める。べたりと重くなった生地に、刻んだグラニースミスとドライクランベリーを加えてさらに混ぜた。

加熱工程がないこのレシピは、最初「簡単すぎるかもしれない」と思っていた。ところがどうして、混ぜているうちに微妙な調整が必要なことに気づく。グラニースミスの水気の拭き加減によって、全体のまとまり具合がずいぶん変わるのだ。今回は丁寧に拭いたつもりだったが、それでもわずかにしっとりしている。オーツが水分を吸いながら少しずつ落ち着いてきた。

手のひらで丸める、という行為

手を軽く濡らし、約30gずつ手のひらで丸めた。この作業が、思いのほか好きだった。土を触る感覚に少し似ている。手のひらの熱と圧力で、ばらばらだった素材が一つの形に収まっていく。農園の仕事は、結局のところ、素材の力を引き出して整えることだと日ごろから思っている。この小さなエネルギーボールを丸めながら、ふとそんなことを考えた。

全部で12個ほどできた。バットに並べてラップをかけ、冷蔵庫へ。30分後に取り出した。

試食:グラニースミスの酸味が、口の中で主張する

一口食べると、最初にオーツとナッツの香ばしさが来る。蜂蜜の甘さがやわらかくそれを包んでいる。そして——少し遅れて、グラニースミスの鋭い酸味が来た。ナッツの濃厚さに埋もれずに、きちんと自分の存在を主張してくる。その清涼感が、口の中にたまった甘さと脂気をすっと流してくれる。後味がいい。

妻に一個渡すと「これ、畑に持っていけるね」と言った。確かに、ラップで包んでポケットに入れれば、農作業の合間に手軽に食べられる。小さいが、オーツとナッツが入っているから腹持ちも悪くない。娘は冷蔵庫から勝手に三個持っていった。翌朝には残り二個になっていた。

農園主から読んでくださるあなたへ

このエネルギーボールは、加熱なし、道具もボウルひとつで作れる。難しい工程はひとつもない。けれど、素材の選び方だけは手を抜いてほしくないと思っている。

グラニースミスのあの鋭い酸味と、崩れない果肉の歯ごたえは、他のりんごでは出せない個性だ。紅玉で作っても美味しいが、後味の爽やかさはグラニースミスに軍配が上がる。農園では今年もグラニースミスを丁寧に育てている。オンラインショップで直送でお届けできるので、ぜひ一度手に取ってみてほしい。

忙しい朝に、農園の作業の合間に、あるいは子どものおやつに。手のひらに収まるこの小さなボールが、あなたの日常のどこかに収まってくれたら嬉しい。